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フロスと歯間ブラシ – 正しい使い分けと使用方法

予防歯科・クリーニング  / 定期検診  / 歯周病

フロスと歯間ブラシ - 正しい使い分けと使用方法

「歯ブラシだけでは歯垢の約60%しか除去できない」という事実をご存知でしょうか。歯と歯の間は歯ブラシの毛先が届きにくく、虫歯や歯周病が最も発生しやすい場所です。そこで重要になるのが、デンタルフロスと歯間ブラシを使った「歯間清掃」です。

しかし、「フロスと歯間ブラシの違いがよくわからない」「どちらを使えばいいの?」「使い方が難しそう」という声をよく耳にします。今回は、歯科医師の視点から、フロスと歯間ブラシの特徴、使い分けの基準、そして正しい使用方法について詳しく解説します。

なぜ歯間清掃が必要なのか

歯ブラシだけでは限界がある

どんなに丁寧に歯ブラシで磨いても、歯と歯の間の歯垢は除去できません。歯ブラシの毛先は、歯と歯が接している部分には物理的に入り込めないからです。研究によれば、歯ブラシだけの清掃では歯垢除去率は約58%、フロスや歯間ブラシを併用することで約86%まで向上することが分かっています。

虫歯と歯周病のリスク

歯と歯の間に残った歯垢は、虫歯菌や歯周病菌の温床となります。特に歯と歯の間にできる虫歯は「隣接面う蝕」と呼ばれ、発見が遅れやすく、治療も複雑になりがちです。また、歯間の歯垢は歯茎の炎症を引き起こし、歯周病の原因にもなります。

デンタルフロスとは

フロスの特徴

デンタルフロス(以下、フロス)は、細い繊維を束ねた糸状の清掃用具です。歯と歯の間が狭い部分でも挿入でき、歯と歯が接触している部分(コンタクトポイント)の清掃に最も適しています。

フロスの種類

ワックスタイプとノンワックスタイプ ワックスタイプは滑りが良く、歯間に入れやすいため初心者向きです。ノンワックスタイプは繊維が広がりやすく清掃効果が高いですが、慣れるまで使いにくいと感じる方もいます。初めての方はワックスタイプから始めることをお勧めします。

ホルダータイプと糸巻きタイプ ホルダータイプ(糸ようじ)は持ち手があり、片手で簡単に使えます。初心者や手先の器用さに自信がない方に適しています。糸巻きタイプは経済的で、糸を好きな長さに切って使えるため、慣れた方や全ての歯間を丁寧に清掃したい方に向いています。

エクスパンディングフロス 水分を含むと膨らむ特殊な繊維で作られたフロスです。歯間の広さが不均一な方や、より広い面積を清掃したい方に適しています。

歯間ブラシとは

歯間ブラシの特徴

歯間ブラシは、細い針金に小さなブラシがついた清掃用具です。歯と歯の間に隙間がある場合に使用し、歯茎に近い部分(歯頸部)の清掃に優れています。ブラシ部分が歯面を直接擦るため、歯垢除去効果が非常に高いのが特徴です。

歯間ブラシのサイズ

歯間ブラシは、SSSSサイズからLLサイズまで様々なサイズがあります。サイズの選び方は非常に重要で、小さすぎると清掃効果が低く、大きすぎると歯茎を傷つけてしまいます。

一般的なサイズ展開:

  • SSSSサイズ: 0.6〜0.8mm
  • SSSサイズ: 0.8〜1.0mm
  • SSサイズ: 1.0〜1.2mm
  • Sサイズ: 1.2〜1.5mm
  • Mサイズ: 1.5〜1.8mm
  • Lサイズ以上: 1.8mm〜

歯間ブラシの形状

ストレートタイプ まっすぐな形状で、前歯の清掃に適しています。初心者にも使いやすい基本的な形状です。

L字タイプ 持ち手が曲がっており、奥歯の清掃がしやすい設計になっています。特に上の奥歯や歯の裏側の清掃に便利です。

ゴムタイプ 針金ではなくゴムやシリコンで作られたタイプです。金属アレルギーの方や、歯茎への刺激が気になる方に適しています。ただし、清掃効果は従来型よりやや劣ります。

フロスと歯間ブラシの使い分け

基本的な選択基準

フロスを使うべき場合

  • 歯と歯の間に隙間がなく、ぴったり接している部分
  • 若い方や歯茎が健康な方
  • 矯正装置がついていない場合
  • 歯周病がない、または軽度の場合

歯間ブラシを使うべき場合

  • 歯と歯の間に隙間がある部分
  • 歯茎が下がっている部分
  • ブリッジや矯正装置の周り
  • 中等度以上の歯周病がある場合
  • 40代以降で歯茎の退縮が見られる場合

併用のススメ

多くの方は、口の中の状態が均一ではありません。前歯はフロス、奥歯は歯間ブラシというように、部位によって使い分けることが理想的です。特に30代後半以降は、徐々に歯茎が下がり始めるため、定期的に歯科医院でチェックを受け、適切な清掃用具を選びましょう。

サイズ選びの重要性

歯間ブラシのサイズ選びは特に重要です。自己判断が難しい場合は、歯科医院で測定してもらうことをお勧めします。一般的には、歯間ブラシがスッと入り、少し抵抗を感じる程度のサイズが適切です。無理に押し込む必要があるサイズは大きすぎます。

デンタルフロスの正しい使い方

糸巻きタイプの使用方法

Step 1: フロスを準備する フロスを40〜50cm程度(肘から指先までの長さ)に切ります。両手の中指にフロスを2〜3回巻きつけ、人差し指と親指で糸を張った状態にします。このとき、実際に使う部分は2〜3cm程度にします。

Step 2: 歯間に挿入する フロスをピンと張り、前後にゆっくり動かしながら歯と歯の間に優しく入れていきます。勢いよく入れると歯茎を傷つけてしまうので注意してください。コンタクトポイント(歯と歯が接している部分)を通過する際に「パチン」と音がすることがありますが、これは正常です。

Step 3: 歯面を清掃する 歯間に入ったら、フロスを片方の歯面に沿わせ、歯茎の中に1〜2mm程度入れます。その状態で上下に5〜6回動かして歯垢を除去します。終わったら、隣の歯面も同様に清掃します。つまり、1つの歯間で両側の歯面を清掃することになります。

Step 4: フロスを取り出す 清掃が終わったら、入れた時と同じように前後に動かしながらゆっくりと取り出します。使用した部分は汚れているので、次の歯間を清掃する際は新しい部分を使います。

Step 5: すべての歯間を清掃 上下の歯すべての歯間(親知らずを除いて26カ所)を清掃します。最初は時間がかかりますが、慣れれば5分程度で完了します。

ホルダータイプの使用方法

ホルダータイプは、糸部分を歯間に入れ、前後に動かすだけで使用できます。ただし、糸が短いため歯茎の中まで入れにくく、また一つのホルダーで全ての歯間を清掃すると衛生的ではありません。できれば途中で水洗いするか、複数本使用することをお勧めします。

フロス使用時の注意点

  • 強く押し込みすぎない(歯茎を傷つける原因に)
  • 同じ部分を使い回さない(汚れを他の歯間に移してしまう)
  • 出血があっても続ける(健康な歯茎なら数日で出血しなくなる)
  • 使用後はしっかり手を洗う

歯間ブラシの正しい使い方

基本的な使用方法

Step 1: サイズを確認する 初めて使用する場合は、最も小さいサイズから試します。歯間ブラシが無理なく入り、少し抵抗を感じる程度が適切です。

Step 2: 歯間に挿入する 歯茎を傷つけないよう、歯面に沿ってゆっくりと挿入します。鉛筆を持つように歯間ブラシを持ち、歯茎に対して直角ではなく、やや斜め方向から入れるのがコツです。

Step 3: 前後に動かす 歯間ブラシが入ったら、2〜3回ゆっくりと前後に動かします。このとき、回転させたり上下に動かしたりする必要はありません。

Step 4: 両側から清掃 可能であれば、表側(頬側)と裏側(舌側)の両方から歯間ブラシを入れて清掃すると、より効果的です。

Step 5: すすぐ 1つの歯間を清掃したら、歯間ブラシを水ですすぎます。汚れがついたまま次の歯間に使用しないようにしましょう。

部位別のテクニック

前歯の清掃 ストレートタイプを使用し、正面から挿入します。鏡を見ながら行うと位置が確認しやすいでしょう。

奥歯の清掃 L字タイプを使用すると、角度がついているため奥歯に届きやすくなります。口を大きく開けすぎると頬が邪魔になるので、適度に開けた状態で行います。

下の奥歯の裏側 最も難しい部位です。L字タイプを使用し、舌を反対側に寄せながら、歯間ブラシを斜め下から挿入するとうまくいきます。

歯間ブラシ使用時の注意点

  • 無理に押し込まない(入らない場合はサイズが合っていない)
  • 針金部分が歯や歯茎に当たらないようにする
  • 毎回水洗いして使用する
  • ブラシが乱れたり、針金が曲がったりしたら交換する(週1〜2回程度が目安)
  • 初めて使用する際は出血することがあるが、続けることで改善する

使用頻度とタイミング

理想的な使用頻度

フロスも歯間ブラシも、理想は1日1回、最低でも1日おきの使用が推奨されます。歯垢は約24時間で形成され始め、48時間で成熟すると言われています。そのため、最低でも2日に1回は歯間清掃を行うことが虫歯・歯周病予防に効果的です。

使用するタイミング

就寝前の歯磨き時に行うのが最も効果的です。理由は以下の通りです:

  1. 寝ている間は唾液の分泌が減り、細菌が繁殖しやすい
  2. 時間に余裕があり、丁寧に清掃できる
  3. 朝起きた時の口のネバつきが軽減される

また、歯ブラシの前に使用するか後に使用するかについては意見が分かれますが、フロスや歯間ブラシで歯垢を浮かせてから歯ブラシで磨くと、より効果的に清掃できます。

よくある質問と回答

Q: フロスを使うと出血します。使い続けて大丈夫ですか?

A: 最初は出血することがありますが、これは歯茎に炎症があるサインです。優しく使い続けることで、通常1〜2週間で出血しなくなります。ただし、2週間以上出血が続く場合や、痛みを伴う場合は歯科医院を受診してください。

Q: フロスが引っかかったり切れたりします

A: 歯と歯の間に虫歯がある、詰め物に段差がある、歯石がついているなどの可能性があります。無理に使わず、歯科医院で確認してもらいましょう。

Q: 歯間ブラシが入りません

A: サイズが大きすぎる可能性があります。最も小さいサイズ(SSSSまたはSSS)から試してみてください。それでも入らない場合は、その部位にはフロスを使用しましょう。無理に入れると歯茎や歯を傷つけます。

Q: 子どもにも使わせるべきですか?

A: フロスは乳歯が生え揃った3歳頃から保護者が行い、小学校高学年頃から自分で使えるよう練習しましょう。歯間ブラシは通常、歯茎が下がり始める成人以降に必要となります。

Q: 1日に何回使ってもいいですか?

A: 正しい方法であれば、1日2〜3回使用しても問題ありません。ただし、力を入れすぎたり頻繁に使いすぎると歯茎を傷めることがあるので、適度な力加減を心がけてください。

特殊な状況での使用方法

矯正装置がある場合

ワイヤー矯正をしている方は、通常のフロスでは使いにくいため、先端が硬くなっている「矯正用フロス」や「スーパーフロス」の使用をお勧めします。また、歯間ブラシも装置の下を清掃するのに有効です。

ブリッジがある場合

ブリッジの下(ダミー部分)は歯ブラシだけでは清掃できません。歯間ブラシやスーパーフロスを使って、必ずブリッジの下を清掃しましょう。

インプラントがある場合

インプラント周囲の清掃は特に重要です。歯間ブラシは柔らかいタイプを選び、インプラント周囲を優しく清掃してください。

まとめ

フロスと歯間ブラシは、どちらが優れているということではなく、口の中の状態や部位によって使い分けることが重要です。若い方や歯茎が健康な方は主にフロスを、年齢とともに歯茎が下がってきた方や歯周病がある方は歯間ブラシを中心に使用するのが基本です。

最初は慣れるまで時間がかかり、面倒に感じるかもしれません。しかし、一度習慣化してしまえば、歯磨きと同じように自然に行えるようになります。毎日の歯間清掃が、将来の虫歯や歯周病を防ぎ、健康な歯を守ることにつながります。

どの清掃用具を選べばよいか迷う場合や、使い方に自信がない場合は、ぜひ歯科医院でご相談ください。一人ひとりの口の状態に合わせた最適な清掃方法をアドバイスさせていただきます。歯間清掃を習慣化して、一生自分の歯で食べられる健康な口腔環境を目指しましょう。