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副鼻腔炎と歯科の深い関係性:歯が原因で起こる副鼻腔炎について

根管治療  / 歯周病  / 歯周病治療  / 歯科口腔外科

副鼻腔炎(ふくびくうえん)といえば、一般的には風邪や花粉症などの鼻の問題が原因と考えられがちです。しかし、実は歯科領域との関連が非常に深く、歯が原因で副鼻腔炎を引き起こすケースも少なくありません。今回は、副鼻腔炎と歯科の関係性について、歯科医師の視点から詳しく解説していきます。

副鼻腔とは何か

まず、副鼻腔について基本的な理解を深めましょう。副鼻腔は、鼻腔の周囲にある空洞の総称で、前頭洞(ぜんとうどう)、篩骨洞(しこつどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、そして上顎洞(じょうがくどう)の4つがあります。

これらの副鼻腔の中で、特に歯科と深い関わりがあるのが「上顎洞」です。上顎洞は左右の頬の奥に位置し、上顎の歯根と非常に近接しています。場合によっては、上顎の奥歯の根の先端が上顎洞の底部に突出していることもあります。この解剖学的な位置関係が、歯性上顎洞炎を引き起こす主な要因となっています。

歯性上顎洞炎とは

歯が原因で起こる副鼻腔炎を「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」と呼びます。一般的な副鼻腔炎は鼻や喉からの感染によって起こる「鼻性上顎洞炎」ですが、歯性上顎洞炎は歯や歯周組織の炎症が上顎洞に波及することで発症します。

研究によると、慢性副鼻腔炎の約10〜40%が歯性上顎洞炎であるとされており、決して珍しい疾患ではありません。しかし、耳鼻咽喉科を受診しても原因が特定できず、適切な治療が遅れてしまうケースも見られます。

歯性上顎洞炎の主な原因

1. 根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)

虫歯が進行して歯の神経が死んでしまうと、歯根の先端部分(根尖部)に膿が溜まる「根尖性歯周炎」を引き起こします。この炎症が上顎洞に波及すると、歯性上顎洞炎となります。特に上顎の第一大臼歯や第二大臼歯は根尖と上顎洞が近接しているため、発症リスクが高くなります。

2. 歯周病

重度の歯周病により、歯を支える骨が溶けてしまうと、歯周ポケット内の細菌が上顎洞に到達する可能性があります。特に奥歯の歯周病が進行している場合は注意が必要です。

3. 抜歯後の合併症

上顎の奥歯を抜歯する際、まれに上顎洞と口腔内が交通してしまう「口腔上顎洞瘻(こうくうじょうがくどうろう)」が生じることがあります。この状態が続くと、口腔内の細菌が上顎洞に侵入し、炎症を引き起こします。

4. インプラント治療による合併症

近年増加しているのが、インプラント治療に関連した歯性上顎洞炎です。上顎洞底までの骨の量が不足している状態でインプラントを埋入すると、インプラント体が上顎洞内に突出したり、上顎洞粘膜を損傷したりする可能性があります。また、インプラント周囲の感染が上顎洞に波及することもあります。

5. 歯科材料の迷入

根管治療(歯の神経の治療)の際に使用する薬剤や充填材料が上顎洞内に押し出されてしまうケースがあります。これらの異物が上顎洞内に残ると、慢性的な炎症の原因となります。

歯性上顎洞炎の症状

歯性上顎洞炎の症状は、一般的な副鼻腔炎と似ていますが、いくつか特徴的な点があります。

全身症状

  • 頬部の痛みや圧迫感(片側性が多い)
  • 鼻閉(鼻づまり)
  • 膿性の鼻汁
  • 後鼻漏(鼻汁がのどに流れる感覚)
  • 頭痛や頭重感
  • 顔面の腫脹
  • 発熱(急性期)

歯科特有の症状

  • 原因歯の痛みや違和感
  • 咬合時の痛み
  • 上顎臼歯部の自発痛
  • 歯肉の腫脹
  • 口臭(特徴的な悪臭を伴うことがある)

特徴的なのは、頭を下に向けたり、体を動かしたりすると症状が悪化することです。また、片側性の症状が多いことも歯性上顎洞炎を疑うポイントとなります。

診断方法

歯性上顎洞炎の診断には、歯科と耳鼻咽喉科の両面からのアプローチが重要です。

歯科での診断

  1. 問診・視診:症状の経過、既往歴、治療歴の確認
  2. 打診・触診:原因歯の特定
  3. エックス線検査:パノラマエックス線写真やデンタルエックス線写真による評価
  4. CT検査:歯根と上顎洞の位置関係、上顎洞内の状態の詳細な把握
  5. 電気診:歯髄の生死の判定

耳鼻咽喉科での診断

  1. 鼻腔内視鏡検査:上顎洞の自然口からの排膿の確認
  2. 画像検査:CTやMRIによる上顎洞内の評価
  3. 上顎洞穿刺:必要に応じて上顎洞内容物の採取と細菌検査

歯科用CTの普及により、歯根と上顎洞の詳細な位置関係や、上顎洞粘膜の肥厚、洞内の貯留液などを正確に把握できるようになりました。これにより、歯性上顎洞炎の早期診断が可能となっています。

治療方法

歯性上顎洞炎の治療は、原因となっている歯の治療と、副鼻腔炎そのものの治療を並行して行う必要があります。

歯科治療

  1. 根管治療:感染した歯髄を除去し、根管内を清掃・消毒して薬剤を充填
  2. 抜歯:保存不可能な歯や、根管治療で改善しない場合
  3. 歯周治療:歯周病が原因の場合は徹底した歯周治療
  4. 口腔上顎洞瘻の閉鎖:瘻孔が存在する場合は外科的閉鎖術
  5. 異物の除去:上顎洞内に迷入した歯科材料やインプラント体の除去

内科的治療

  1. 抗菌薬投与:細菌感染に対する治療
  2. 消炎鎮痛薬:痛みや炎症の軽減
  3. 粘液溶解薬・去痰薬:膿の排出を促進
  4. 抗アレルギー薬:必要に応じて使用

外科的治療

保存的治療で改善しない場合は、以下の外科的処置を検討します。

  1. 内視鏡的副鼻腔手術(ESS):耳鼻咽喉科で行われる標準的な手術
  2. 歯科的上顎洞手術:歯科から上顎洞にアプローチする方法
  3. 上顎洞根治術(Caldwell-Luc法):重症例や再発例に対して行われる

予防のために大切なこと

歯性上顎洞炎を予防するためには、日頃からの口腔ケアと定期的な歯科受診が重要です。

日常的な予防策

  1. 適切なブラッシング:毎食後の丁寧な歯磨き
  2. フロスや歯間ブラシの使用:歯と歯の間の清掃
  3. 定期検診:3〜6ヶ月ごとの歯科検診
  4. 早期治療:虫歯や歯周病の早期発見・早期治療
  5. 適切な治療の選択:特にインプラント治療では、CTによる十分な術前診査が重要

歯科治療時の注意点

  • 上顎の奥歯の治療時は、上顎洞との位置関係を確認
  • インプラント治療では、骨量が不足している場合は適切な処置(サイナスリフトなど)を検討
  • 抜歯後は安静を保ち、強く鼻をかまない
  • 治療後に異常を感じたら早めに受診

歯科と耳鼻咽喉科の連携の重要性

歯性上顎洞炎の治療において最も重要なのは、歯科と耳鼻咽喉科の連携です。歯科で原因となる歯の治療を行っても、上顎洞内の炎症が残っていれば症状は改善しません。逆に、耳鼻咽喉科で副鼻腔炎の治療を行っても、原因歯の問題が解決していなければ再発を繰り返します。

そのため、以下のような連携が理想的です。

  1. 歯科での原因歯の特定と治療計画の立案
  2. 耳鼻咽喉科での副鼻腔炎の評価と治療
  3. 両科での治療方針の共有と調整
  4. 定期的な経過観察と情報共有

近年、医科歯科連携の重要性が認識され、このような協力体制が整いつつあります。

まとめ

副鼻腔炎、特に上顎洞炎は、歯科領域と密接な関係があります。なかなか治らない副鼻腔炎や、片側性の症状がある場合は、歯が原因である可能性を考慮する必要があります。

上顎の奥歯に痛みや違和感がある、治療後に鼻の症状が出現した、長引く副鼻腔炎に悩んでいるなどの場合は、歯科での精密検査をお勧めします。CT検査により、歯と上顎洞の関係を詳しく調べることで、適切な診断と治療につながります。

歯性上顎洞炎は、原因となる歯の問題を解決することで改善が期待できる疾患です。気になる症状がある方は、ぜひ一度歯科医院にご相談ください。早期発見・早期治療が、快適な生活を取り戻す近道となります。