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歯ぎしり用のナイトガードを作りましたが、顎関節症の根本治療にはなりませんか?

マウスピース製作  / 歯科口腔外科

こんにちは、トワデンタルクリニック人形町です。
「ナイトガードを作ったのに、まだ顎が痛い」「これで顎関節症は治らないんですか?」という質問をよくいただきます。ナイトガードは歯ぎしりや食いしばりから歯を守る大切な装置ですが、顎関節症の治療については誤解されている部分も多いようです。今回は、ナイトガードの役割と顎関節症治療について、詳しくご説明いたします。
ナイトガードの本来の目的とは
まず、ナイトガードが何のために作られるのかを理解することが大切です。
歯を守るための装置
ナイトガードの主な目的は、歯ぎしりや食いしばりによる歯へのダメージを防ぐことです。人間の噛む力は想像以上に強く、睡眠中の歯ぎしりでは自分の体重の2倍から3倍もの力がかかることがあります。この強い力が直接歯にかかり続けると、歯が削れたり、割れたり、詰め物が取れたりする原因になります。
ナイトガードを装着することで、上下の歯が直接接触することを防ぎ、歯の摩耗や破損を予防します。また、詰め物や被せ物、インプラントなどの歯科治療を長持ちさせる効果もあります。
顎への負担軽減効果
ナイトガードには、顎関節や筋肉への負担を軽減する効果もあります。適切に調整されたナイトガードは、噛み合わせの力を分散させ、特定の歯や顎の部分に過度な負担がかからないようにします。これにより、顎の痛みや筋肉の緊張が和らぐことがあります。
しかし、ここで重要なのは「軽減する」であって「治す」ではないということです。
顎関節症の根本原因は複雑
顎関節症が一筋縄ではいかない理由は、その原因が非常に多岐にわたるためです。
多因子疾患としての顎関節症
顎関節症は「多因子疾患」と呼ばれ、一つの原因だけで起こるものではありません。以下のような様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
構造的な要因として、顎関節の形態異常、関節円板のズレや変性、噛み合わせの問題などがあります。生まれつきの骨格や歯並びが影響することもあります。
機能的な要因では、歯ぎしりや食いしばり、片側だけで噛む癖、頬杖をつく習慣、不適切な姿勢などが挙げられます。日常的な習慣が徐々に顎に負担をかけていくのです。
心理社会的な要因も見逃せません。ストレス、不安、緊張、うつ状態などが筋肉の緊張を高め、歯ぎしりや食いしばりを誘発します。現代社会において、この要因は非常に大きな割合を占めています。
外傷による顎関節症もあります。交通事故や転倒、スポーツでの衝撃、歯科治療時の長時間の開口などが引き金になることがあります。
個人差が大きい
同じような歯ぎしりをしていても、顎関節症になる人とならない人がいます。これは、個人の骨格、筋肉の質、痛みへの感受性、ストレス対処能力などが異なるためです。そのため、治療も一人ひとりに合わせたアプローチが必要になります。
ナイトガードが「根本治療」にならない理由
では、なぜナイトガードだけでは顎関節症の根本治療にならないのでしょうか。
対症療法としての位置づけ
ナイトガードは基本的に対症療法です。歯ぎしりや食いしばりという「症状」に対処するものであり、「なぜ歯ぎしりをするのか」という根本原因にアプローチするものではありません。
例えば、ストレスが原因で歯ぎしりをしている場合、ナイトガードは歯を保護しますが、ストレスそのものを解消するわけではありません。日中の食いしばりや姿勢の問題、筋肉の緊張パターンなども、ナイトガードだけでは改善しません。
すべての顎関節症に有効ではない
顎関節症には大きく分けて、筋肉の問題が主体のタイプ、関節自体の問題が主体のタイプ、両方が混在するタイプがあります。ナイトガードが効果を発揮しやすいのは筋肉の問題が主体のケースですが、関節円板のズレや変形が主な原因の場合は、ナイトガードだけでは十分な効果が得られないことがあります。
適切な調整が必要
ナイトガードは作って終わりではありません。適切に調整されていないナイトガードは、かえって症状を悪化させることもあります。定期的な調整とチェックが欠かせませんが、これだけでも根本治療とは言えません。
顎関節症の根本治療に必要なこと
では、顎関節症を根本から治すためには何が必要なのでしょうか。
包括的なアプローチ
顎関節症の治療には、多角的なアプローチが必要です。
生活習慣の見直しが基本になります。硬いものを避ける、大きく口を開けすぎない、片側噛みをやめる、頬杖をつかない、うつ伏せ寝を避けるなど、日常生活での顎への負担を減らすことが重要です。
姿勢の改善も欠かせません。猫背やストレートネック、長時間のスマートフォン使用などは、顎関節に予想以上の負担をかけます。正しい姿勢を意識することで、顎の筋肉の緊張も和らぎます。
ストレスマネジメントは特に重要です。ストレスが歯ぎしりや食いしばりの大きな原因である場合、リラクゼーション法、適度な運動、十分な睡眠、趣味の時間など、ストレスを軽減する方法を見つけることが治療の鍵になります。
理学療法やマッサージで筋肉の緊張をほぐすことも有効です。顎の筋肉だけでなく、首や肩の筋肉もケアすることで、全体的な改善が期待できます。
認知行動療法が有効な場合もあります。痛みへの恐怖や過度な注意が症状を悪化させることがあり、心理的なアプローチが助けになることもあります。
段階的な治療計画
顎関節症の治療は、通常、段階的に進めます。まずは保存的治療から始め、それでも改善しない場合は、より専門的な治療を検討します。
初期段階では、生活指導、ナイトガード、理学療法などの保存的治療を行います。多くの場合、これらの治療で症状は改善します。
中期段階では、より専門的な理学療法、薬物療法、スプリント療法の調整などを行います。
重症例や保存的治療で改善しない場合は、関節腔内洗浄、ヒアルロン酸注入、ボツリヌス療法、外科的治療などを検討することもあります。
時間をかけた治療
顎関節症の改善には時間がかかることが多いです。長年の習慣や筋肉のパターンを変えるには、数ヶ月から場合によっては1年以上かかることもあります。焦らず、根気よく治療を続けることが大切です。
ナイトガードを効果的に使うために
ナイトガードは根本治療ではありませんが、治療プロセスにおいて重要な役割を果たします。
正しい使用法
毎晩装着すること、定期的な清掃を行うこと、違和感や痛みがあれば調整してもらうこと、定期的にチェックを受けることが基本です。自己判断で使用をやめたり、調整したりしないようにしましょう。
他の治療との組み合わせ
ナイトガードを使用しながら、日中の食いしばりに気をつける、ストレス解消法を実践する、適度な運動を取り入れる、姿勢を意識するなど、総合的な取り組みを行うことで、より高い効果が期待できます。
効果の評価
ナイトガード使用後の変化を記録しておくことをお勧めします。痛みの頻度や強さ、口の開きやすさ、朝起きた時の顎の状態などを観察し、担当医と共有することで、治療方針の調整に役立ちます。
まとめ
ナイトガードは歯を保護し、顎への負担を軽減する優れた装置ですが、それだけで顎関節症が完全に治るわけではありません。顎関節症は複雑な多因子疾患であり、根本的な改善には、生活習慣の見直し、ストレス管理、姿勢の改善、理学療法など、包括的なアプローチが必要です。
ナイトガードは治療の重要な一部ですが、それを使いながら、自分の生活や習慣を見直し、顎に優しい生活を心がけることが大切です。症状が改善しない場合や悪化する場合は、遠慮なく担当医に相談してください。
トワデンタルクリニック人形町では、患者様一人ひとりの症状や生活背景に合わせた、きめ細やかな顎関節症治療を行っています。ナイトガードの製作だけでなく、総合的な治療計画のご提案やフォローアップも大切にしています。お困りのことがありましたら、いつでもご相談ください。
皆様の快適な口腔環境と健康な毎日をサポートできるよう、スタッフ一同、心を込めて診療にあたらせていただきます。