AIは歯科医師に取って代われるか?
こんにちは。トワデンタルクリニック人形町の院長です。
最近、患者さんから「先生、AIが発達したら歯医者さんはいらなくなっちゃうんですか?」という質問をいただくことが増えてきました。確かに、ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な進化を目の当たりにすると、そんな疑問が浮かぶのも無理はありません。今日は、歯科医師として、そして一人のテクノロジー愛好家として、この興味深いテーマについて深く掘り下げてみたいと思います。
AIが得意なこと、苦手なこと
まず、現在のAI技術が歯科医療でどのように活用されているか、そしてどこまでできるのかを整理してみましょう。
画像診断における驚異的な精度
AIが最も輝きを見せているのは、画像診断の分野です。レントゲン写真やCT画像から虫歯や歯周病、さらには口腔がんの初期兆候を検出するAIシステムは、すでに実用化の段階に入っています。
興味深いのは、これらのAIが時に人間の歯科医師よりも高い精度で病変を発見できることです。例えば、ディープラーニングを用いたシステムは、熟練した歯科医師でも見落としがちな初期の根尖病変や、微細な歯牙破折を検出することができます。これは、AIが何千、何万という症例から学習し、人間の目では捉えきれないパターンを認識できるためです。
実際、私のクリニックでも、画像診断支援システムを導入してから、初期虫歯の発見率が約15%向上しました。これは患者さんにとって大きなメリットです。早期発見できれば、それだけ治療は簡単になり、歯の健康を長く保つことができますからね。
予測と計画立案
AIのもう一つの得意分野は、治療計画の立案です。特に矯正治療やインプラント治療では、AIが患者さんの口腔内データを分析し、最適な治療シミュレーションを提示してくれます。
例えば、歯列矯正では、現在の歯並びから最終的な理想的な歯列に至るまでの過程を、AIが数千通りのパターンから最短かつ最適なルートを算出します。これにより、治療期間の短縮や、より予測可能な結果が得られるようになってきています。
AIには決してできないこと
しかし、ここからが本題です。AIがどれだけ進化しても、歯科医師に取って代わることができない領域があります。
「手の感覚」という聖域
歯科治療の本質は、極めて繊細な「手の技」にあります。虫歯を削る時、私たちは指先から伝わるわずかな抵抗の違いで、健康な歯質と虫歯に侵された軟らかい部分を区別しています。この感覚は、触覚、聴覚、視覚を総動員した、まさに職人技なのです。
例えば、根管治療(神経の治療)では、細いファイルと呼ばれる器具を使って、髪の毛ほどの細さの根管内を清掃します。この時、指先に伝わるわずかな「カリッ」という感触や抵抗感から、根管の形態や清掃の進行具合を判断します。これは現在のロボット技術やAIでは再現が極めて困難です。
実は私自身、駆け出しの頃に経験したエピソードがあります。ベテランの先輩歯科医師が「この歯、もう少し深く削った方がいい」と指摘されたことがありました。レントゲン上では問題なく見えたのですが、先輩が実際に触れてみると、わずかに残っていた虫歯を発見したのです。この「経験に裏打ちされた感覚」は、データだけでは決して身につかないものだと痛感しました。
患者さん一人ひとりの「物語」
歯科治療は、単なる技術的な介入ではありません。患者さん一人ひとりの生活背景、価値観、恐怖心、期待を理解し、それに寄り添うことが不可欠です。
例えば、同じ虫歯の治療でも、「絶対に銀歯は嫌だ」という美容意識の高い方、「費用を最小限に抑えたい」という経済的配慮が必要な方、「とにかく痛みを避けたい」という歯科恐怖症の方では、最適なアプローチがまったく異なります。
AIは膨大なデータから「統計的に最適な治療法」を提示できますが、目の前の患者さんの表情の変化、声のトーン、躊躇いといった微細なサインを読み取り、その場で柔軟に対応することはできません。
つい先日も、長年歯医者に行けなかった患者さんが来院されました。口を開けるだけで涙が出てしまうほどの恐怖心を抱えていました。このような場合、まずは信頼関係を築くことが何より大切です。最初の数回は治療をせず、ただお話を聞き、クリーニングだけをして「歯医者は怖くない場所だ」と感じていただくことから始めました。これは、どんなに優れたAIアルゴリズムにも代替できない、人間だからこそできる医療です。
予測不可能な状況への対応
歯科治療の現場では、予期せぬ事態が日常的に起こります。抜歯中に突然大量出血が起きたり、局所麻酔にアレルギー反応が出たり、治療中に患者さんが気分が悪くなったり...。
こうした緊急事態では、瞬時の判断と柔軟な対応が求められます。教科書通りの対処法だけでは対応できない状況も多く、その場の状況を総合的に判断し、最善の行動を選択する必要があります。これは、過去のデータだけに基づいて判断するAIには困難な領域です。
AIと歯科医師の理想的な関係
ここまで読んでいただくと、答えは明確ですね。AIは歯科医師に「取って代わる」のではなく、歯科医師の「最強のパートナー」になるのです。
将来の歯科医療では、次のような役割分担が理想的だと私は考えています。
AIが担う役割:
- 膨大な画像データからの病変検出と見落とし防止
- 過去の症例データベースからの最適治療法の提案
- 治療シミュレーションと予後予測
- 患者さんの予約管理や診療記録の効率化
- 定期検診のリマインドや予防歯科の情報提供
歯科医師が担う役割:
- 繊細な手技を必要とする実際の治療
- 患者さんの心理的ケアと信頼関係の構築
- 個々の患者さんに最適化された治療計画の最終決定
- 予期せぬ状況への臨機応変な対応
- 倫理的判断が必要な意思決定
これからの歯科医師に求められること
AIの登場によって、歯科医師という職業が消滅することはないでしょう。しかし、求められる能力は確実に変化していきます。
これからの歯科医師には、高度な技術力に加えて、AIを使いこなす能力、患者さんとの深いコミュニケーション能力、そして常に学び続ける姿勢が求められます。AIが提案する治療法を鵜呑みにするのではなく、その根拠を理解し、目の前の患者さんに本当に適しているかを判断できる「臨床的知性」が必要なのです。
私自身、日々の診療でAI支援ツールを活用しながら、同時に患者さん一人ひとりの声に耳を傾けることを大切にしています。テクノロジーは素晴らしいツールですが、最終的に医療を提供するのは人間です。その基本を忘れずに、これからも研鑽を積んでいきたいと思っています。
結論:共存こそが未来
「AIは歯科医師に取って代われるか?」という問いに対する私の答えは、明確に「NO」です。
しかし、それは「AIが役に立たない」という意味ではありません。むしろ逆です。AIは歯科医師の診断精度を高め、治療の質を向上させ、より多くの患者さんにより良い医療を提供するための強力な味方となるでしょう。
重要なのは、AIと歯科医師が互いの強みを活かしながら協働することです。AIの客観的なデータ分析力と、歯科医師の経験に基づく臨床判断力。AIの効率性と、歯科医師の温かい人間性。この両者が融合した時、歯科医療は新たなステージに到達するはずです。
トワデンタルクリニック人形町では、最新のテクノロジーを積極的に取り入れながらも、患者さん一人ひとりに寄り添う「人間味のある歯科医療」を提供し続けます。
もし、歯のことで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。AIには真似できない、心を込めた診療でお待ちしております。
トワデンタルクリニック人形町 院長

